母と読書

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先日、私の母が遊びに来て、しばらく我が家に滞在した。

私たち夫婦が帰省すると、母はいつも夫と私をもてなそうと家の中を忙しなく動き回ってくれるので、今回の母の滞在中は私がそうするつもりだった。

しかし、何もすることのない母は手持ち無沙汰だったようで、私の本棚を眺めていた。普段は読書をしない母だが、何か読んでみるかと聞いたら、読んでみようかなと言うので、母に合いそうな本を選んで渡した。

向田邦子の『父の詫び状』。これが、思いの外面白かったらしく、読みながら声を出して笑ったりしていた。

母は「お母さん、本を読むのなんて十数年ぶりかも」と言った。そして、「もっと早く本を読めばよかったわ」とも言っていた。

いつもの生活リズムと違うせいか読書に集中出来ない私と違って、母は黙々と、いや、声を出して笑うから黙々とではないか、ともかく母は本を読んだ。『父の詫び状』(文春文庫)の巻末にある向田邦子の本のあらすじを読んだ母が「『家族愛』っていうの持ってる?」と聞いてきたので、「『家族熱』なら持ってるよ」と答えた。

『家族熱』も面白い、面白いと言って読み切った母。エッセイの『父の詫び状』よりも小説の『家族熱』の方が母の好みだったようだ。

今度は向田邦子以外の本を読んでみたいと言うので、宮本輝の『彗星物語』を渡した。これまた母のツボにハマったようだった。「恭太っていう子はいい子だわ」、「このおじいさん面白いね」などと私に感想を言いながら楽しそうに読んでいた。

母が帰る前日、宅配便で送るためにまとめた荷物の中に向田邦子の『思い出トランプ』と宮本輝の『錦繍』、藤沢周平の『蝉しぐれ』の文庫本を忍ばせた。

昨日、電話で母が「今、向田邦子の本読んでるよ」と言っていた。

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