山崎ナオコーラ『昼田とハッコウ』(講談社文庫)読了。
山崎ナオコーラさんの本はこれまで読んだことがなかったけれど、町の本屋さんが舞台というので本屋大好き人間である私は飛びついた。しかも『昼田とハッコウ』は、これまた私の好きな家族小説でもあるのだ。
昼田とハッコウのコンビが何だか三浦しをんのまほろ駅前の多田と行天に似ているなぁと思いながら読んでいた。まほろ駅前の原作も映画もドラマも好きな私にとってそれは好ましいことなので、わくわくしながら読み進めた。ハッコウが行天と似た雰囲気だというのはわりと合っていると思うんだけど、昼田は違っていた。主人公は昼田なので当然昼田の心情や思考が描かれるわけだけど、それがどうにもスッキリしないというか、ぐずぐずしてるというか、全部が全部ではないけど読んでいてイライラするのだ。それは、例えば第一印象では付き合うなら断然昼田だと思っていたのが、途中で破天荒で非常識でもハッコウの方が昼田よりいいかもと思うレベル。だけど、それがリアルなんだろうなとも思った。いい人を演じながら心の中では見栄や嫉妬が渦巻いていて、そのことに悩んだり落ち込んだりする。私だってそうだし、昼田もそうなのだ。人間の嫌な面を不快にならない程度に繊細に描いている。山崎ナオコーラさんの他の小説も読んでみたくなった。
文庫の解説で永江朗さんが「作者が日ごろから書店に関心を抱いているだけでなく、作者の家族が書店に勤務していることも、このリアルな描写に一役買っているのでしょう」とあるが、書店には客としてしか通ったことのない私が知らない書店の仕事について細かく書かれていて興味深く読んだ。
文庫にはアロワナくんのイラスト入りのアロワナ書店のしおりが入っていた。上下巻とも同じデザインのしおりで表と裏にイラストが描かれている。
文庫の表紙も上巻はアロワナ書店のカバー、下巻はスリップボックス(おそらく作中に出てきたものと思われる)で、文庫の帯も上下巻を並べるとアロワナくんが完成したり、そんな遊び心が嬉しい。そういえば長嶋有の『夕子ちゃんの近道』の文庫も帯としおりに遊び心があったけど(帯裏のオマケは初回出荷分のみって書いてある。しおりはどうだろう?)、あれも講談社文庫だった。