もうすぐ12月だというのに暖かいね、などと夫と話していたばかりだったのに、今朝は急に冬らしい寒さ。床が冷たいので、すぐに靴下を履いた。朝ごはんは、温かいご飯に梅干しを乗せて、梅茶漬けの素をふりかけて、お湯を注いだ熱々の梅茶漬け。冬がはじまった。
単行本がプレジデント社だし、もしかしたらこのまま文庫化されないかもしれないと思って、文庫派の私が、珍しく単行本で買っていた堀江敏幸・角田光代の『私的読食録』。
しかし、新刊情報で文庫化され新潮文庫になると知り、発売日の11月30日を今か今かと待っていた。
Kindle Oasisを購入してからというもの、紙の本を買うか、Kindle版を買うかで迷うようになった。『私的読食録』(単行本)の感想的なものの最後に「鞄にしのばせておいて、手持ち無沙汰な時にサッと取り出してパラパラと適当なページを開いて読んだりするのにもちょうどよさそうだ。文庫化されたら文庫も買おう。」と 書いたのだけれど、あの頃は完全に紙の本派で、Kindle版のことなど考えもしなかった。
最近、お風呂での読書は、もっぱらKindle Oasisになった。エッセイや漫画を読んでいる。ちなみに昨夜は庄野潤三の『自分の羽根』。お風呂でちびちびと読んでいる。
『私的読食録』は、堀江さんと角田さんが交互に「食」が出てくる本を紹介しているのだけれど、ひとつのエッセイが単行本だと見開きで完結しているので、短いし、区切りよく読めるのが私のお風呂読書にぴったり。きっとお風呂でも読みたくなるだろうなと思い、文庫本も捨てがたかったけれど、今回はKindle版を購入した。
せっかくなので、『私的読食録』の単行本とKindle版の違いを紹介しようと思います。
『私的読食録』単行本とKindle版の違い
それにしても新潮文庫のKindle版の表紙の味気なさ。そういえば、伊坂幸太郎の『ホワイトラビット』のKindle版もそうだった。
ちなみにマイライブラリでは、文庫本の表紙で表示される。
目次は、このような感じになっている。
単行本の目次は、まず最初に「角田光代」あるいは「堀江敏幸」とあり、それから紹介している本のタイトルと著者。実にシンプル。
一方、Kindle版はというと、最初にエッセイのタイトル、それから紹介している本の著者とタイトルというように変わっている。これだと角田さんと堀江さんのどちらが書いたのかは、目次からはわからない。交互に書いているのだから、書いていなくてもわかるといえばわかるけれど。
Kindle版だと目次で読みたいエッセイをタッチすれば、すぐにそのエッセイの画面になるのがやはり便利。
それに発売日に買って、ダウンロードして、すぐに読めるのというのが、地方で暮らす私にとって大変ありがたい。
気になっていたのは、単行本にある紹介する本の書影がKindle版でも表示されるのかどうかだったのだけれど、残念ながら表示されていない。
私は、書影があった方が、読書案内っぽくてわくわくするから、出来ればKindle版でも表示して欲しかった。
角田さんが「なんでもない日々が、ささやかな波乱に満ちる」というタイトルで、武田百合子の『富士日記』を紹介している。
書かれているのは、本当に単なる日々の記録。その日買ったもの、献立、その日会った人、会った人々の言ったこと、その日いった場所、そこであったできごと。一見だれにでも書けそうな文章だが、とんでもない。世界の細部がみずみずしく立ち上がり、人も、ものも、草花も、空も、愛嬌たっぷりにいきいきとしはじめる。なんでもない日々が、ささやかな波乱に満ちる。生活の持つ底力にしみじみと気づかされる。
そういえば、角田さんが『富士日記』について書いた文章は、『富士日記を読む』(中公文庫)にも収録されていたなと思って、確認したら、そちらは「生活の底力、日記の凄み」というタイトルで、『小説新潮』二〇〇八年四月号で発表されたものだった。
なお、文庫化を記念して、堀江さんと角田さんの対談「文庫化記念対談 本の中にしかない味がある」が収録されている。Kindle版にも、もちろん収録されています。
この文庫化記念対談、結構ボリュームがあって読み応えがありました。
今年の10月に行われた文庫化記念対談では、新型コロナウイルスによる生活の変化が小説に及ぼす影響についても触れていて、角田さんは次のように話しています。
自分で小説を書いていて、みんなで食堂でご飯を食べるシーンがあると、「あれ?大勢で飲み食いしていいんだっけ?」と違和感を覚えたりするんです。今はそうやって、わいわい食べることがほとんどなくなってしまっているので。
なるほど、小説にそういう影響が出てくるのかと思いました。
『私的読食録』で紹介されている100冊のうち、私が読んだことのあるものを今回改めて数えてみました。
『父の詫び状』向田邦子 (角田)
『富士日記』武田百合子 (角田)
「梅酒」高村光太郎 (堀江)
『チエちゃんと私』よしもとばなな (堀江)
「クレープ」伊集院静 (角田)
『斜陽』太宰治 (角田)
『ジョゼと虎と魚たち』田辺聖子 (角田)
『檸檬』梶井基次郎 (角田)
『それからはスープのことばかり考えて暮らした』吉田篤弘 (堀江)
『センセイの鞄』川上弘美 (角田)
『坊ちゃん』夏目漱石 (堀江)
『まんが道』藤子不二雄A (角田)
『ロング・グッドバイ』レイモンド・チャンドラー (角田)
『洋食屋から歩いて5分』片岡義男 (堀江)
100冊中たった14冊。角田さん紹介の本が9冊で、堀江さん紹介が5冊。
ちなみに高村光太郎の「梅酒」は、『高村光太郎詩集』(新潮文庫)所収として紹介されているけれど、私が読んだのは『智恵子抄』(新潮文庫)。
今読んでいる庄野潤三の『自分の羽根』に収録されている「お裾分け」も紹介されているのだけど、私はまだそこまで読んでいない。私は、途中で読むのを投げ出してしまった太宰治の『津軽』も紹介されている。
しかし、あれも読みたい、これも読みたいと思いながら読んだはずなのに、単行本を読んでから増えたのは片岡義男の『洋食屋から歩いて5分』の1冊だけとは。
Kindle版で読み返したら、きっとまた読みたい本がゴロゴロ出てくるだろう。