松本清張『死の発送』競馬界を舞台に描いた推理小説ということで読んでみた

松本清張は、今年の8月4日に没後30年を迎えたそうだ。それで、映像化作品を一挙放送したりしているらしい。

私は、先日初めて松本清張の小説を読んだ。『或る「小倉日記」伝 傑作短編集(一)』という短編集だが、そのタイトルに偽りはなく、まさに傑作揃いで、どの短編も面白かった。

 

松本清張『或る「小倉日記」伝 傑作短編集(一)』ドラマはいろいろ観たけど小説は初めて
松本清張『或る「小倉日記」伝 傑作短編集(一)』(新潮文庫)を読んだ。乗代雄介の『本物の読書家』に、『或る「小倉日記」伝』のことが出てきて、ちょっと気になっていたのだ。

 

それで、「競馬界を舞台に描く巨匠の本格長編推理小説」という謳い文句が以前から気になっていた『死の発送』(角川文庫)が、ちょうどKindle Unlimitedの対象になっていたので、読んでみた。今度は長編小説。

岡瀬というN省の元官吏が刑務所を出所したところから物語は始まる。岡瀬は、公金5億円を横領し使い込んだのだが、5億円のうち1億円が使途不明のままだった。

岡瀬が1億円をどこかに隠していると睨んだ三流新聞社の編集長・山崎は、部下の底井に命じて岡瀬を見張らせる。しばらく大人しくしていた岡瀬が、出所後、初めて外出する。行き先は、府中競馬場だった。

競馬好きの私は、競馬界を舞台にした推理小説というので、わくわくしながら読んだ。

 

騎手のさまざまな色彩が流れて行く。それが馬場を一周し、眼の前を通過した。団った馬は、やがて一列になり、一つのリズムに乗ったようにすべって行く。
馬券こそ買っていないが、底井武八の眼が思わず馬に見惚れた。白い雲を浮かべる蒼い空の下で、艶々と光る黒褐色の馬の群が美しい。観衆の間に、どよめきが湧いた。

 

いいね、いいねと思いながら読み進めたが、おや?とつっこみたくなる場面もちらほらと出てきた。

 

岡瀬正平はその厩務員風の男に、何やら話しかけていた。先方でも岡瀬の顔を見て、馬の口輪を取っている厩務員と離れ、岡瀬に近づいた。

 

開催中の競馬場で一般の客と厩務員が話す?しかも、その様子を見ていた底井は、厩務員からレースの情報を聞いたのかもしれない、などと当然のように考える。さらに、底井は競馬ファンのふりをして厩舎を訪れたりもする。今なら絶対にあり得ない状況だ。しかし、この小説を連載していたのは昭和36年。その頃は、中央競馬の規則がゆるかったのだろうか?そんなこんなを心の中でつっこみながら読んだ。

 

あらすじにあるからネタバレにはならないだろうと思うので書くが、ある駅から死体入りのトランクが発送される。しかし、そのトランクを発送したのは、死体となってトランクに入っていた被害者本人だった、ということで、この謎解きがメインとなる。

そこで登場するのが、時刻表。競馬ミステリーを期待していたのだが、どうやらこれはトラベルミステリーらしい。

面白く読んだけれど、底井が時刻表トリックをあれこれ推理しだす終盤はやや冗長に感じられたし、幕切れがあっけないのもちょっともったいなかった。しかし、私は松本清張の小説がどうやら好きらしいというのが、この2冊目でわかった。

 

『死の発送』は2014年にドラマ化されていた。調べてみると、底井を向井理、山崎を寺尾聰、さらにドラマオリジナルキャラで、底井の相棒的存在の女性記者を比嘉愛未が演じている。底井ひとりではダメだったのだろうか?

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