入間人間の百合短編集『エンドブルー』はあの作品の後日談だった

りんごが届いた。箱を開けると、大きなりんごが綺麗に並んでいた。そういえば、と佐藤正午の『アンダーリポート』を読み返した時に、試してみようと思っていたリンゴのトーストを作ることにした。

 

「トーストにはバターをぬらずに、リンゴのスライスは櫛形にできるだけうすく、それを端と端が重なるように何枚かトーストにのせてください」

 

リンゴと食パンがあればそれはつくれる。冷凍室に保存してある食パンをトーストして、リンゴを皮ごと薄くスライスしてその上にのせれば出来あがりだ。

 

しかし、りんごが温かい方がいいと思ったので、食パンに薄くスライスしたりんごをのせてトーストした。これがなかなか美味しかった。

 

入間人間『エンドブルー』(電撃文庫)を読んだ。イラストは、『やがて君になる』の仲谷鳰。

これまでに買った入間さんの作品は全て文庫本で揃えているし、表紙と巻頭の仲谷さんのイラストをカラーで見たいという気持ちもあったので、Kindle版ではなく文庫本を買った。ちなみに表紙と巻頭のカラーイラストの他に挿絵もある。

 

『エンドブルー』には、「ガールズ・オン・ザ・ライン」、「雅な椀」、「光る風の中」、「今にも消える鳥と空に」という4編の短編が収録されているが、いずれも百合と言っていいと思う。

4編が独立しているのではなく、前半の「ガールズ・オン・ザ・ライン」と「雅な椀」、後半の「光る風の中」と「今にも消える鳥と空に」が、それぞれ連作になっている。

私は、前半については全く知らない作品として読んだ。しかし、後半は、あの作品の後日談であるとすぐにわかって、嬉しくなった。ところが、前半も過去の入間作品の後日談であることが、あとがきを読んでわかった。

前半は『クロクロクロック』、後半は『少女妄想中。』の後日談。私は『クロクロクロック』については未読であったから、何の予備知識もなかったけれど、あとがきに「読まなくても読めるよう意識して書きはしました」とあるように、読んでいなくても何の問題もなく楽しめた。

 

『クロクロクロック』の後日談だという「ガールズ・オン・ザ・ライン」と「雅な椀」は、陶芸家の弟子・岩谷カナと、本人いわく真っ当ではない仕事をしている新城雅という二人の女性の話。師匠を「ししょー」と呼び、キスを「ちっす」と言うカナのキャラは、『安達としまむら』のヤシロを彷彿とさせる。カナは、25歳の女性なのだけど。

カナと同い年の雅は、金髪の美女。表紙以外にも仲谷鳰さんのイラストがあるのだけれど、なるほど確かに雅は美人だ。彼女がしている真っ当ではない仕事が何なのかは後に明らかになる。その雅の視点となる「雅な椀」は、序盤からハードボイルドで驚いた。この展開から百合に!?と思うかもしれないが、これが、ちゃんと(と言うのも変だけれど)百合になる。しかも、なかなか甘めでニヤニヤしちゃうような百合に。

 

さて、後半の『少女妄想中。』の後日談である「光る風の中」と「今にも消える鳥と空に」ですが、いや良かった。私の理解力では理解しきれなかった『少女妄想中。』の謎が解けた気がする。

 

 

メインになるのは、『少女妄想中。』の芹とアオ(青乃)。それぞれが恋人と幸せな日々を送っていたのだけれど、アオと芹の身に不思議な出来事が起きて、二人は再会する。「雅な椀」がハードボイルドだとすると、「光る風の中」はSFだろうか。

『少女妄想中。』で自分の姪と恋人になった芹だが、ずっと好きだった幼馴染のアオとの再会に芹の心が揺らぐのではないかとヤキモキしながら読んだ。というのも、芹と姪が私の推しカプだから。

だけど、その答えは、すでに文庫の帯に書いてあった。

 

消えてしまった彼女と、わたし。
そんな二人の再会と、
本当のお別れ———

 

この短編集のタイトルが、なぜ『エンドブルー』なのか。それがわかった時、なるほどと思わず頷くと同時に切なくなった。表紙のイラストは、芹とアオ。そして、『エンドブルー』というタイトル。

全体的にはシリアスな雰囲気だけれど、芹と姪、アオと彼女のイチャイチャは甘い。特に芹と姪は、前作からさらに甘さを増している。芹が姪を恋人として完全に受け入れたからなのだろう。

 

「あんたの髪が、わたしは大好き」
姪は一瞬、わたしの気持ちに頬をほころばせる。でも、物足りないように引っ込む。
「……髪だけ?」
「他も全部」
「なんかすごく雑……」
『光る風の中』

 

後日談を読んでモヤモヤが晴れたので、『少女妄想中。』を読み返そうと思う。

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