津村記久子の「地下鉄の叙事詩」がじんわりと面白かった

素麺、冷やしうどん、冷しゃぶ。暑さのせいで、どうしても冷たいもの、さっぱりしたものばかり作ってしまう。決して手抜きではない。いや、ちょっとあるかな。

 

津村記久子『アレグリアとは仕事はできない』(ちくま文庫)を読んだ。

表題作は、主人公のミノベが、アレグリアというプリンタ、スキャナ、コピーの複合機に対して憎悪を抱きながら働く話。

津村さんお得意のお仕事小説だと思って読み始めたら、主人公のミノベがかなりの曲者。複合機に対して悪態をつき、憎悪をつのらせるだなんて。そりゃあ先輩に愛想をつかされてもしょうがないよな。なんて思いながら読んでいたら、お仕事小説のはずがミステリの気配が漂い始める。やはり津村さんの小説は一筋縄ではいかない。

 

表題作も良かったが、併録の「地下鉄の叙事詩」が面白かった。めっちゃ面白い!というのではなく、じんわりと面白かった。

朝の満員電車に乗り合わせた4人の人物の視点で描かれているのだけど、最初に出てくる大学生のイチカワがとにかくひどい。津村さんの小説で初めて途中で読むのをやめたくなった。私にとってはそれほどに嫌なやつだったのだけど、結論から言うと、最後まで読んで良かった。イチカワの後に出てくる他の3人も決して好感が持てる人物ではないけど、イチカワに比べるとまだましに感じられたおかげで読み進めることができた。

これを読んだら満員電車に乗りたくなくなるのではないか。田舎に住む私の主な移動手段が車で本当によかった。

 

そもそも津村さんの小説に好感が持てる登場人物なんて出てこないような気がする。少なくとも私にとってはそうだ。それなのに津村さんの小説が好きなのはなぜなのか。声を出して笑うわけでも、スカッと爽快な気分になるわけでも、涙するほど感動するというわけでもなく、どちらかというと淡々と読む感じなのだけど、読み終えると他の作品も読みたいと思ってしまうのだ。私は、きっとこれからも津村作品を読むのだろうな。

 

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