『掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集』を読む

和山やまの『女の園の星』を読んだら無性に食べたくなった。主人公の星先生の同僚・小林先生が職員室でよく食べているアレ。私は、もう何年、何十年も食べてなかったし、その存在もすっかり忘れていたのに。というわけで、久しぶりにカロリーメイトを買って食べた。チーズ味。変わらない味と口の中の水分を持っていかれるモサモサ感が懐かしかった。

 

ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集』(講談社文庫)を読んだ。

「エンジェル・コインランドリー店」、「ドクターH.A.モイニハン」と続けて読んで、その荒涼とした雰囲気に戸惑った。この本を読む前に、これも短編集の堀江敏幸『オールドレンズの神のもとで』(文春文庫)を読んで、静謐な世界を堪能したばかりだったから余計にそう感じたのかもしれない。

読み進めると、ほとんどの作品がルシア・ベルリンが実際に体験したことをもとに書いたものらしいということが分かってくる。登場人物の名前や設定が同じだからだ。全ての作品を読んだ後、巻末に収録されているリディア・デイヴィスの「物語こそがすべて」や岸本佐知子さんによる訳者あとがきを読んで、その推測が正しいことを知った。アルコール依存症であった祖父や母から幼少期に受けた仕打ちについて読んで暗澹とした気持ちになったりもしたけれど、ルシア・ベルリンの文章からはタフさを、その作品からは生々しいまでの生を感じた。

 

わたしがここまで長生きできたのは、過去をぜんぶ捨ててきたからだ。悲しみも後悔も罪悪感も締め出して、ぴったりドアを閉ざす。もしもちょっとでも甘い気持ちで細く開けたが最後、バン! たちまちドアは押し破られ、苦悩の嵐が胸の中に吹きこみ恥で目がつぶれコップや瓶が割れジャーは倒れ窓は割れこぼれた砂糖とガラスの破片でしたたかすっ転んでおびえ取り乱し、そうしてやっとぶるぶるふるえて泣きながら重いドアを閉ざす。散らばった破片を一から拾いなおす。
「巣に帰る」

 

訳者の岸本佐知子さんがインタビューでルシア・ベルリンのことを「武田百合子さんとどこか似ているかも」と話しているのを読んだのだけど、『掃除婦のための手引き書』を読み終えて、それだ!と思った。

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