綿矢りさ『生のみ生のままで』読後の多幸感がとにかくすごい百合小説

綿矢りさ『生のみ生のままで』上・下巻(集英社文庫)を読んだ。

綿矢りさが、女性同士の恋愛を描いた小説、つまりは百合小説ということで、文庫化されたらすぐさま買って読むつもりだった。

しかし、6月から最近までの私は、未読の新たな小説を読むよりも、お気に入りの既読本を読みかえしたい気分だったので、先月発売された『生のみ生のままで』をしばらくスルーしていた。そして、先日、ようやく『生のみ生のままで』の文庫本を購入して、読んだ。

それは、昼食後のことで、眠かった私は、『生のみ生のままで』の上巻をちょっと読んで、眠くなったら、そのまま昼寝をするつもりだった。しかし、上巻を半分くらい読んだところで、思った。これは、やめられないとまらないやつだ、と。

 

逢衣は、恋人の颯と出かけた湯沢のリゾートホテルで、颯の幼なじみの琢磨と、その恋人の彩夏に出会う。

琢磨(たくま)はともかく、他の登場人物の名前の読み方に「?」となってしまった。逢衣(あい)、颯(そう)、彩夏(さいか)だ。

ちなみにタイトルの『生のみ生のままで』は、文庫の表紙にも小さくふりがなが振ってあるが「生(き)のみ生(き)のままで」である。

 

逢衣にとって、ひとつ年上の颯は、高校時代の憧れの先輩だった。颯とは大学卒業後に飲み会で再会し、付き合うようになり、1年前から同棲をしている。25歳の逢衣は、颯との結婚を意識し始めいた。

人当たりのいい琢磨と違って、サングラスをかけたまま自己紹介もしない彩夏の第一印象は最悪で、逢衣は4人で過ごすことになったのを憂鬱に思っていた。実は、彩夏は、知名度はまだそれほどでもないとはいえ芸能人で、サングラスを外した彼女の顔は、逢衣が「私が今までの人生で初めて会うレベルで整っている」と思うほどの美人だった。

4人で車で海に出かけた帰りにトラブルに遭い、二人きりになった逢衣と彩夏。その時の出来事が、2人の距離を縮めてくれたおかげで、逢衣は4人で過ごす残りの時間を楽しく過ごした。そして、東京に帰る朝、逢衣は彩夏からアドレスを書いた紙を手渡され、「また連絡ちょうだい」と言われる。

 

私は、逢衣と彩夏が恋に落ちると知った上で、この小説を読んでいたので、彩夏が逢衣に自分の連絡先を渡す場面で、ようやく始まったか、と思ったのだけど、それは違うと後でわかった。もう始まっていたのだ。

東京に戻った逢衣と彩夏は、2人で遊ぶようになった。ある日、逢衣は、颯から琢磨が彩夏に振られたと聞いて驚く。その理由は、「好きな人ができた」から。

彩夏から何も聞いていなかった逢衣は、彩夏に会い、真相を聞こうとしたのだが、そこで、逢衣にとって全く予期せぬ出来事が起きた。

 

私の顔にかかる彼女の長い髪も甘い香りの体臭も細くとがった肩も全部が全部、女の情報ばかり。そんな気持ちはまったく無かった私の身体は、激しい拒否反応を起こして強張っていた。

 

逢衣への想いを抑えきれなくなった彩夏が、とうとう行動に出たのだ。しかし、逢衣にとって、彩夏は、あくまでも友達。

 

「いままでは男と付き合ってきたけど、自分が本当に好きなのは女だって、初めて気づいたっていうこと?」という逢衣からの問いかけに、彩夏は、こう答える。

 

「違う。男も女も関係ない。逢衣だから好き。ただ存在してるだけで、逢衣は私の特別な人になっちゃったの。逢衣に会うまで女の人なんてむしろ嫌いなくらいだったよ、どんな魅力的な女の子でもライバルとしか思えなかったし女友達もほとんどいない。でも逢衣だけは性別を超えて、特別の格別の存在として私の目に入ってきた」

 

これを聞いた逢衣が、「私は女の人は好きにはなれないよ」と言うと、彩夏は、「女の人を好きになれなくてもいいよ。私さえ好きになってくれれば」と言うのだった。

そして、逢衣は、女の人ではなく、彩夏を好きになる。

 

その後は、逢衣も颯と別れることになり、同棲を解消。逢衣は、彩夏の事務所が借りているマンションで彩夏と暮らすことになるのだが、それでおしまい、ではない。

逢衣と彩夏の幸せな時間がずっと続けばいい、と思いながら読み進めたが、二人の仲を引き裂く出来事が起きてしまう。

上巻を読み終えた私は、やっぱりそうきたか、と思った。女性同士の恋愛小説にありがちな、相手を思って身を引く悲恋パターンか、と。それがいいとか、悪いとかではなく、私の場合、いわゆるバッドエンドだと一度は読んでも、二度、三度と読みかえしたくはならないのだ。恋愛小説、百合小説の場合は特に。

 

でも、やめられないとまらないまま深夜になって、そのまま下巻に突入して、悲恋パターンという私の予想は外れたと気付いた。気付いて、嬉しくなった。

 

ねえ、いつだって自信満々でいてよ。いつまでも太陽の下でしようよ。私たち、どうなっても、見てるのはお互いだけ。肉がつこうが、頬が痩けようが、骨になっても二人でいようよ。

 

ラストは、まるで漫画のような爽やかなハッピーエンド(いや、最近は、漫画でもまっすぐなハッピーエンドというのは、なかなかないから違うかも)で、読み終えて、本を閉じた後の、多幸感がもうすごすぎて、すぐにでも上巻の、逢衣と彩夏の出会いから読みかえしたくなった。でも、下巻を読み終えたのが深夜1時を過ぎていたので、実際に読みかえしたのは翌日だったけど。

久しぶりに一気読みさせられた。なぜ、こんな傑作を文庫化されてすぐに買って読まなかったのかと悔やむくらいに、私の期待を遥かに超えた、最高の百合小説だった。

以前書いた「『安達としまむら』で百合にハマって7年の私のおすすめ百合小説16選」のおすすめ百合小説に加えたい。

 

綿矢りささんの小説は、『ひらいて』を読んだことがあるだけだったのだけど、その『ひらいて』では、女子高生の、女の子同士の性描写がどこか痛々しく感じられた。だけど、『生のみ生のままで』では、素敵に描かれていると感じた。逢衣と彩夏の間に愛があるからだろう。

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買った本

綿矢りさ『生のみ生のままで』上・下巻(集英社文庫)、乗代雄介『本物の読書家』(講談社文庫)購入。

『生のみ生のままで』は6月の、『本物の読書家』は7月の新刊文庫の中で一番気になっていた作品。

乗代雄介さんの小説は、まだ読んだことがなく、『本物の読書家』が初めてになる。『本物の読書家』というタイトルに惹かれた。

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