堀江敏幸『オールドレンズの神のもとで』中島みゆきの「杏村から」を聴いてみた

久しぶりの雨。カーテンを開けても部屋が薄暗い。おかげで今日はプロジェクターで映画を観るのにわざわざカーテンを閉める必要がなかった。最近、また映画熱があがっていて時間があれば映画を観ている。今日はNetflixで『ライリー・ノース 復讐の女神』という映画を観た。邦題そのままライリー・ノースという女性が娘と夫を殺され、復讐の女神となるのだけれど、勧善懲悪で後味スッキリだった。金城一紀の『映画篇』に収録されている「ペイルライダー」のようだなと思った。今度読み返してみよう。

 

堀江敏幸『オールドレンズの神のもとで』(文春文庫)を読んだ。

18篇の作品が収録された掌篇小説集で、一番短いのは「杏村から」という2ページの作品。ほんの2ページ(実際は1ページとちょっと)なのだけど、とても味わい深く、すぐに次の作品を読むのはやめてしばらく余韻に浸った。最後の「記憶が薄れる前に——あとがきにかえて」を読んで、「杏村から」は「ダ・ヴィンチ」の中島みゆき特集に寄せた掌篇で中島みゆきの曲のタイトルであることを知った。

便利なことにAmazon Music Primeで聴けるので、「杏村から」を聴いてみた。曲名「杏村から」の杏、さらに歌詞にある「きのう お前の 誕生日だったよ」が小説に使われていた。しかし、曲と小説は別物になっているので、曲を聴かずに読んでも小説の良さに何の影響もないということがわかった。

逆に収録作の中で一番長いのが「果樹園」で、これもよかった。主人公は休職中の男で、オクラとレタスという名前の犬の散歩をするアルバイトをしている。

「あの辺り」という作品の主人公・菱山が長編小説『なずな』のあの人だとは「あとがきにかえて」を読むまで気付かなかった。「あの辺り」は食が印象的な形で出てくる小説という注文に応じて書いた作品ということだけど、その狙い通りまさに印象的だった。

 

昆布のだしに酒糟を溶かして、白味噌と醤油で味を調える。具の中心は塩鮭で、これだけでもう深い塩味が出るから、あとはにんじん、大根、ゴボウ、こんにゃくを適当に投げ入れてよく煮込み、子どもが飲めるくらいまでアルコールを飛ばせばいい。こんにゃくは、村でいちばんきれいな湧き水を使って近所のばあさんがこしらえていた地産のもので、生で食べてもうまかったという。それからひとり一枚、椀に油揚げを載せ、そのうえに刻みネギをひとつまみ盛った。正月の餅を加えることもあった。

 

この糟汁の作り方を読んだだけで、「私の口のなかにはいやしい唾液が満ちはじめ」という菱山と同じような状態になってしまった。

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買った本

ルシア・ベルリン、岸本佐知子訳『掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集』(講談社文庫)、串田孫一『山のパンセ』(ヤマケイ文庫)購入。

『掃除婦のための手引き書』は、3月の新刊文庫で気になっていた一冊。Kindle版もあるけど、単行本と同じかっこいい表紙が気に入ったこともあり文庫本にした。

 

私自身は山に登るわけではないのだけれど、昔から山岳小説やエッセイを読むのが好きだった。それなのに『山のパンセ』という随筆集の存在を最近まで知らなかった。少し前にKindle Unlimitedで読んだ岡崎武志の『読書の腕前』(光文社新書)で知って、読んでみたくなった。

自選の岩波文庫(356ページ)もあって迷ったけど、91編収録のヤマケイ文庫(512ページ)を選んだ。

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