ずっと新刊が出るのを待っているシリーズ作品がある。上遠野浩平のしずるさんシリーズだ。
百合にじわじわとハマりだした頃にどうやら百合風味のミステリー小説があるらしいというのを知った。それが、しずるさんシリーズ。もともと富士見ミステリー文庫から出ていたのだけど、ちょうど星海社文庫から新装版が出るタイミングだったので、そちらで揃えることにした。新装刊に伴い新たにイラストを担当することになった国道12号さんの絵が好みだったというのもある。
百合風味と書いたけれど、帯には「とってもミステリーで、ちょっぴり百合。」とはっきり百合と書いてある。まあ、ほのぼのと可愛らしい百合が描かれているのだけど、ミステリーの部分は決して可愛らしくなく、血腥い殺人事件が起きたりする。
山の上にある病院に入院しているしずるさんに会うために坂道を登って病院に通うよーちゃん。よーちゃんは残酷な事件や複雑に込み入った謎に興味を示すしずるさんのために事件の話をしたり資料を集めたりする。それらを手掛かりにしずるさんが事件の謎を解く。しずるさんシリーズは、いわゆる安楽椅子探偵ものプラス百合。
ミステリーとして楽しめる作品だと思うけど、私はどちらかというと百合小説として楽しんでいる。しずるさんシリーズは、読み進めるほど百合度が濃くなっていくような気がする。
しずるさんはよーちゃんとの面会だけを楽しみにしている。他の人では駄目なのだ。どうも私はそういう百合に弱いらしい。入間人間の『安達としまむら』の安達もしまむらさえいてくれれば他に何もいらないというタイプだし、村田沙耶香の『マウス』の瀬里奈も律以外の人のことはどうでもいいというタイプだった。
「よーちゃん——あんまり私を心配させないで。あなたに何かあったら、私はどうすればいいの?」
と切なげな声で言ったので、私はすっかり動揺してしまう。
「ど、どういうことなの?私、なんか悪いことしちゃったの?しずるさんを失望させるような——」
おろおろしていると、しずるさんは私を、ちょいちょい、と手招きして、
「よーちゃん——こっち来て」
と言ったので、言われるままに私は彼女の近くへと寄っていく。
すると彼女は私の方へ手を伸ばしてきて、背中に指先を触れさせると、そのまま——きゅうっ、と抱きしめてきた。
私は訳がわからず、頭がくらくらしてしまう。
「し、しずるさん——」
彼女の力は、それほど強くない——それでも私は動けない。
「よーちゃん、忘れないで——怪しい出来事を調べたり、謎を解いたりするのは私たちの使命でも義務でもない——そのために危険を冒したりするのは絶対に駄目。駄目よ」
「う、うん——わかってる。わかってるわよ、しずるさん——気をつけるから、気をつけてるから」
あうあうしながら、私も返事をする。やがてしずるさんは私から身を離して、
「でも、ほんとうに良かったわ。あなたが無事で」
しみじみとそう言ったので、私は苦笑してしまう。
上に引用したのは、星海社文庫になってから出た4巻の『しずるさんと気弱な物怪たち』から。これはもう百合でしょう。このシーンの挿絵がまた可愛いんだ。
4巻の発行が2014年4月10日。まだまだ物語は続くものと思って新刊を楽しみに待っているのだけど、その気配がない。ひょっとして4巻で完結してしまっているのだろうか。うーむ。
内容紹介にしずるさんシリーズ入門編とある『騎士は恋情の血を流す The Cavalier Bleeds For The Blood』はまだ読んでいない。
買った本
井上真偽の『探偵が早すぎる』(講談社タイガ)上下巻購入。
ツイッターでこれは百合では?というつぶやきをいくつか見かけたので思わず。