ワクチン接種3回目の副反応は3日続いた。熱は最高38度で2回目の時よりも低かったのだけど、解熱剤を飲んでも37度台の熱が続いた上に今回は頭痛まであって本当にやれやれという気持ちだった。そんなわけで読書は全く出来なかったのだけど、3日目にはアマプラで見放題が終了間近の映画一覧にあった『マイ・プレシャス・リスト』を観るくらいには元気が戻った。4日目もアマプラで映画『春を背負って』を観た。どちらも体調万全でなくても楽しめそうな、つまりハラハラするようなサスペンスや暗い気持ちになりそうな重いストーリーとかではない映画を選んだつもりで、実際予想通りの内容で楽しめたし、どちらもいい映画だった。
ディック・フランシス『大穴』(ハヤカワ文庫)を読んだ。
春競馬(秋もだけど)が盛り上がってくると、競馬や競走馬が出てくる本が読みたくなる。寺山修司、虫明亜呂無、山口瞳、宮本輝、浅田次郎、ディック・フランシス。
競馬シリーズと呼ばれるディック・フランシスのミステリ小説。邦訳されたそれら作品群のわかりやすい特徴は、ハヤカワ文庫の緑色の背に漢字二文字のタイトルだろうと思う。『興奮』、『大穴』、『重賞』、『本命』、『度胸』、『飛越』、『血統』、『罰金』などその全てが漢字二文字。
全作品を読んだわけではないのだけど、私が読んだ競馬シリーズの中で一番好きなのが『大穴』。元ジョッキーで、今は探偵社の調査員シッド・ハレーが主人公。
シッドは使い走りのチンピラだと甘く見ていた男に銃で撃たれて負傷する。そして、義父チャールズの誘いで彼の家で療養することを決める。しかし、実はチャールズがシッドを招いたのには別の目的があった。チャールズは、ある人物が競馬場の株を買い集め乗っ取りを画策しているという情報を掴んでおり、シッドにその調査に乗り出させようという目的が。落馬事故で騎手生命を絶たれ、探偵社に雇われたものの調査員らしい仕事をさせてもらっていないシッドは、自身が調査員であるという自覚も自信もなく、この先どうするか迷っていたところだったのだけど、競馬場を乗っ取ろうとする卑劣な悪党と対峙するうちに自らも気付いていなかった調査員としての才能を開花させていく。というのが、ざっくりとしたあらすじ。競馬シリーズといっても、競馬そのものがメインではないので競馬に詳しくなくても十分に楽しめる。競馬を少しでも知っていれば競馬のレースシーンの描写などが楽しめる。
私が書いたざっくざくのあらすじを読んだだけでは、それで?と思うだろうけれど、とにかくハラハラとドキドキがすごいのだ。読み始めたら止まらない。もうずっと前のことだけど、初めて競馬シリーズを読んだ時の興奮(初めて読んだのは『興奮』だったかもしれない)は今でも覚えている。私は競馬シリーズで一番の作品を『大穴』か『興奮』かで迷うのだけど、主人公シッド・ハレー(それとチャールズ)の魅力の分だけ『大穴』を一番に選ぶ。
悲鳴をあげなかった。あげるだけ息を吸いこむことができなかった。その瞬間までは、あらゆる苦痛を経験したと人に言ったかもしれない。人間の経験の範囲が狭いものであることを知った。閉じた目の裏が霧をとおして輝く太陽のように、黄色から灰色にかわり、体中から汗が吹き出た。ひどい。ひどすぎる。これ以上は耐えられない。
それでも耐え抜くのがシッド・ハレーなのだ。
買った本
滝口悠生『高架線』(講談社文庫)購入。
今月の新刊文庫で一番楽しみにしていたもの。滝口悠生さんの作品はなかなか文庫化されないように思うのだけど、私の気のせいだろうか。そんなこともあって、私が読んだことがあるのは『死んでいない者』(文春文庫)のみ。第154回芥川賞受賞作だ。他にも文庫化されている作品はあるのだけど、それは私の好みではなさそうなので読んでいない。でも、『高架線』は、そのあらすじにざっと目を通した時、なんだか私の好きな長嶋有の『三の隣は五号室』っぽさを感じた。それで文庫化を心待ちにしていた。
副反応もすっかり治って早速読み始めているけれど、予想的中。どうやら私好みの小説みたいだ。