夜、近所のお好み焼き屋さんまで夫と歩いた。雨上がりで、半袖から出た腕に当たる夜風は、もうすっかり秋だった。久しぶりに食べたお好み焼きは美味しかった。
三浦しをん『あの家に暮らす四人の女』(中公文庫)を読んだ。
四人の女とは、主人公で刺繍作家の牧田佐知、佐知の母・鶴代、佐知の友人・雪乃、雪乃の会社の後輩で、佐知の刺繍教室の生徒でもある多恵美のこと。
佐知と雪乃は、ともに37歳独身、恋人なし。多恵美は二人よりも10歳若い。雪乃と多恵美はそれぞれの事情で一軒家の牧田家に居候している。
『あの家に暮らす四人の女』は、そのタイトル通り牧田家で暮らす四人の女の物語。
四人で暮らすようになって、佐知はたまに、
「ねえ、気づいてる?」
と言う。「私たち、『細雪』に出てくる四姉妹と同じ名前なんだよ」
この佐知の言葉に対する他の三人の反応はこうだ。
「えー。私、『細雪』って読んだことないです。ていうか、あんま小説って読まないし」
と多恵美はほがらかに笑い、
「私も映画でしか見たことない。たしか、幸子は佐久間良子だった。あんた、自分を佐久間良子になぞらえるって、いい度胸ねえ」
と鶴代は鼻で嗤い、
「なんで嘆く必要があるの。私たち、『細雪』と似たような暮らしかたじゃない」
と雪乃は案山子状態のまま首だけかしげた。
「どこが似てんのさ」
「鶴代さんは浮世離れ、佐知は世間知らずの苦労性、私は男の影も形もない、多恵は男に関してまことに奔放」
文庫の解説(清水良典)に「この物語は、谷崎潤一郎の名作『細雪』が下敷きになっている」とある。
なるほど、そうだったのか。しかし、残念ながら、私は多恵美と同じで『細雪』を読んだことがない。なので、この小説が現代版『細雪』であるのかどうか、私にはわからない。
ずっと読みたいとは思っていて、何度かあの分厚い文庫(三分冊の新潮文庫ではなく中公文庫)を買おうとしてはやめるのを繰り返した。なぜなら読み切る自信がないから。
私自身、姉と私の二人姉妹で、姉妹を描いた物語が好きだったりする。向田邦子の「阿修羅のごとく」、江國香織の『流しのしたの骨』などは大好きだ。『流しのしたの骨』は三姉妹+弟だけど。
しかし、『細雪』は、どうも私には格調が高すぎるような気がして、読まないまま今に至っている。
その点、『あの家に暮らす四人の女』は気楽に読めた。途中、カラスが語り手になったり、ミイラが出てきたりした時はどうしようかと思ったけれど、四人の女のテンポよいやり取りに思わずクスッとしたりして、やはり三浦しをんの小説は面白いと再確認した。
追記 その後、谷崎潤一郎の『細雪』を読みました。
買った本
好きな作家3人の文庫を購入。
堀江敏幸『その姿の消し方』(新潮文庫)、柴崎友香『きょうのできごと、十年後』(河出文庫)、吉田篤弘『レインコートを着た犬』(中公文庫)。
新潮文庫の堀江さん作品のカバーデザインはシンプルで落ち着く。一方、柴崎作品と言えば河出文庫のイメージで、黄色い背表紙に安心感を覚える。
『レインコートを着た犬』は、『つむじ風食堂の夜』、『それからはスープのことばかり考えて暮らした』の月舟町シリーズの完結編。
『つむじ風食堂の夜』も『それからはスープのことばかり考えて暮らした』も好きなので、これは文庫化されたら読まなければと思っていたのに、吉田さんの新刊文庫をチェックするのを忘れていて、5月に文庫になっていたことをつい最近知った。