江國香織『なかなか暮れない夏の夕暮れ』・長嶋有『三の隣は五号室』年末に読んだ本のこと

長いと思っていた正月休みがあっという間に終わった。夫の実家からお歳暮のお裾分けをあれも持って行きなさい、これも持って行きなさいと言われるままに頂いて帰った。ハムの詰め合わせはもちろん、自分ではあまり買わないけれど、割と好きなお菓子、カステラなんかはこういう時にもらえると嬉しい。おやつに食べようと思って箱を開けたら、カステラは既に切ってあった。最近のカステラは親切なのだな。

 

年末に江國香織『なかなか暮れない夏の夕暮れ』(ハルキ文庫)と長嶋有『三の隣は五号室』(中公文庫)を読んだ。

 

『なかなか暮れない夏の夕暮れ』は、せっかく夏に文庫が発売されたのに読むのは冬になってしまったけれど、とにかく夢中になって読んだ。江國さんの小説やエッセイは割と読んでいるほうだし、私の江國歴は結構長い。あらすじから大体こんな感じの小説だろうと予想をつけて読み始めたのだけど、江國さんがこんな小説を書くのかと思わず唸った。

主人公は、本ばかり読んでいるちょっと度が過ぎた読書好きの稔。登場人物は他に稔の姉の雀、稔の娘の波十、稔の高校の同級生で稔の顧問税理士でもある大竹、同じく稔の高校の同級生の淳子、それから、“稔(と雀)の所有するアパートやマンションの一つ——どれだったかは思い出せないが——に住む”さやかとチカなど。

祖父母と両親が残してくれた資産のおかげで悠々自適な生活を送る稔は50歳。時間が許す限り本を読んでいる。「胸に小猿とバナナの絵のついた白いTシャツ、薄茶色のハーフパンツ。サッカー地のジャケットは白に水色のストライプ」というファッションセンスもそうだけれど、稔はどこか浮世離れしていると思うのだが、江國さんの小説の登場人物としてはそう珍しいタイプというわけではない。

私が唸ったのは、作中作。稔が読んでいる北欧ミステリーだ。そもそも『なかなか暮れない夏の夕暮れ』の出だしが、その作中作から始まるわけだけど、その北欧ミステリーが私の中の江國さんのイメージにはないハードボイルドな感じで、江國さんがこんなストーリーを、と唸らされたのだ。江國さんが海外の推理小説を読むのが好きだというのはエッセイなどで知っていたけれど。来客や電話などで稔が小説を読むのを中断すると、それと同時に作中作がストップしてしまうので、続きが気になってしょうがなかった。

ああ、それから思いがけず百合だったというか、さやか(あと四年で定年を迎える高校教師)とチカ(さやかの四つ年下で小料理屋をやっている)は一緒に暮らしていて、社会人百合というか、落ち着いた大人の恋人同士。『号泣する準備はできていた』の「熱帯夜」がとても良くて何度も読み返していて、江國さんに百合小説を書いてもらいたいと思っていたのだけど、やはりいつか長編で百合小説を書いてもらいたいという思いを新たにした。

 

2019年最後に読んだのは長嶋有の『三の隣は五号室』。これにも唸った。

『三の隣は五号室』は、第一藤岡荘の五号室の住人たちの物語。最初の住人で大家の息子・藤岡一平(66年〜70年)、二瓶敏雄・文子夫妻(70年〜82年)、三輪密人(82年〜83年)、四元志郎(83年〜84年)、五十嵐五郎(84年〜85年半ば)…十畑保、霜月未苗…といった感じで、登場人物が多く、それが順番に語られるのではなく、藤岡一平はこうだった、三輪密人はこうだったという感じで語られるので、何番目の住人か一目でわかる名前になっているのは非常に助かった(笑)。

文庫の帯に村田沙耶香さんの解説から“小説とは、こんなことが可能なものだったのかと、息を呑んだ。”という文があるが、まさにその通りで、驚きつつもわくわくしながら読んだ。

 

『なかなか暮れない夏の夕暮れ』と『三の隣は五号室』。年末に小説を読む楽しみを存分に味わうことのできる作品に出会えてよかった。

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買った本

長嶋有『三の隣は五号室』(中公文庫)、武田百合子『犬が星見た ロシア旅行』(中公文庫)、穂村弘『本当はちがうんだ日記』(集英社文庫)購入。

『三の隣は五号室』は読み終えた。

『犬が星見た ロシア旅行』は単行本で持っていたのだが、手放してしまっていたので新たに文庫を買った。私の中で武田百合子ブームなので再度読みたくなったのだ。帰省中に読もうと思って持って行ったのだけど、読むことはなかった。家でのんびり読むことにする。

すっかりハマったほむほむのエッセイで未読の『本当はちがうんだ日記』を買った。きっとこれもニヤニヤしながら読むことになるだろう。

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