日差しはまだ夏と変わらないぐらい強いけどひんやりとした風が心地よかったので、車はやめて近所のコンビニまで歩いた。運動したし(徒歩5分)カロリー高めのお弁当を食べてもいいだろうと自分に言い訳しながらこってりめの弁当を買って、ぶらぶらと歩いて帰った。涼しいと思っていたけど家に着いたら汗が噴き出してきて、ますますちゃんと運動した気分になったので、安心して弁当をたいらげた。
三浦しをんの『まほろ駅前狂騒曲』(文春文庫)がものすっっっごく面白かった!
『まほろ駅前狂騒曲』はまほろシリーズの第3弾にして完結篇。第1弾は直木賞を受賞した『まほろ駅前多田便利軒』、第2弾はスピンアウトストーリーを集めた『まほろ駅前番外地』。
『まほろ駅前多田便利軒』がとてもよかったので、期待して『まほろ駅前番外地』を読んだのだけど、期待しすぎたせいかこれがどうも私にはいまいちだった。だから『まほろ駅前狂騒曲』にはあまり期待していなかったのだけど、これがもう面白いのなんの。例えではなく、本当に泣いて笑った。あと少し読んだら寝ようと思いながら読んでいたのだけど途中でやめることが出来ず結局最後まで読んでしまった。時計を見たら朝の4時を少し過ぎたところだった。少し前に木内昇の『幕末の青嵐』を読んだ時もそうだったけど、夢中になりそうな本を夜中から読み始めるのは危険だ。
多田は行天の元妻・凪子から4歳になる娘のはるを預かって欲しいと頼まれる。現在同性のパートナーと暮らしている凪子と行天は結婚していたといっても偽装結婚で、はるは遺伝子上は行天と凪子の娘だが、行天ははるに会ったことはなく、おまけに大の子ども嫌い。そんな行天にはるを預かることをどう切り出そうかと頭を悩ませる多田に、星が更なる厄介事を持ち込んでくる。
他にも多田とキッチンまほろの女社長・亜沙子との恋模様だったり、由良公とその友達からの依頼があったり、岡さん、曽根田のばあちゃん、ルルとハイシーなどおなじみのキャラクターたちがこぞって登場するなどシリーズ完結篇にふさわしい賑やかさ。
しをんさんが作品の中で登場人物に語らせる言葉にはいつもグッときたり、ハッとしたり、とにかく心を掴まれる。
行天とはるを二人きりにしようと思い立った多田。デートだと噓をついて出かけようとする多田に「俺も歩いてどっか出かけようかな」と言う行天。
「どうぞ」
と多田は落ち着いて言った。「そのあいだにはるちゃんになにかあったら、俺は死ぬことにする」
行天は多田を見た。多田は平然と、しかし覚悟をもって行天を見返した。負けたのは行天だった。多田が本気であることが伝わったのだろう。ふてくされたようにソファに横たわり、タオルケットをかぶった。
かつて幼い息子を亡くした多田が放った「そのあいだにはるちゃんになにかあったら、俺は死ぬことにする」という言葉には、行天を黙らせるほどの強い覚悟がある。それでも行天とはるを二人にするのは、多田が行天を信じているから。この静かな熱さがたまらなくいい。
面白すぎてこれで完結してしまうのが辛い。しをんさんの気が変わっていつか第4弾を書いてくれますように。
『まほろ駅前狂騒曲』は文庫で500ページ近い長編。さらに文庫特典の「サンタとトナカイはいい相棒」が収録されている。20ページちょっとの「サンタとトナカイはいい相棒」は声を出して笑ってしまうほど面白かった。解説は岸本佐知子さん。