堀江敏幸の『回送電車』を読んで心を平らかにする

不安な気持ちというものは伝染しやすいのだろうか。最近のニュースを見ていると、そんなことを考えずにはいられない。喜びや幸せが伝染すればいいのに。

 

こんな時に何を読もうかと、部屋の本棚の前で文庫の背表紙を眺めて、手に取ったのが堀江敏幸の『回送電車』(中公文庫)。ⅡでもⅢでもⅣでもない。Ⅰと付いていない最初のやつだ。

堀江さんのエッセイを読むとすうっとするというか、心が平らかになる。きっとこの先何度も読み返すだろう。だから、堀江さんの本は私の本棚にずっと居座ることが決まっている。

『回送電車』の「無所属の夢」というエッセイの出だし。

部屋から一歩も出ずに好きな書物をひらき、頁のうえに再現される世界を自由自在に旅すること。早朝でも深夜でも、晴れていても雨が降っていてもかまわない。ひとはすぐさま頁のなかに入り込み、語り手に導かれてあらゆる時空を旅する。読書とは身分証明書を必要としない唯一の旅の形態であって、ひたすら楽しみのために本と付き合う読書家を「動かない旅人」と称するのは、だから当然なのである。

 

この後に「しかしいまどき読書と旅をむすぶのも、パソコンの画面上で展開される軽やかなネットサーフィンを気ままな旅の比喩に返すのとおなじくらいの紋切り型だろう」と続くのだけど、紋切り型だろうがなんだろうが私は「読書とは身分証明書を必要としない唯一の旅の形態」であると思っている。

実は昨年の台湾旅行が楽しすぎて、今年もまた行きたいねと話していたのだけれど、しばらくは「動かない旅人」でいるしかなさそうだ。

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