野呂邦暢『愛についてのデッサン 野呂邦暢作品集』古本屋の若き店主が主人公

最近Netflixで海外ドラマを観るのにすっかりハマってしまっているのだけど、「新シーズン配信決定」のまま待たされるドラマが多い。『コブラ会』もそのひとつで、シーズン4の配信予定は今年の12月なのだとか。待たされすぎ!ただ、『コブラ会』はシーズン2までは良かったのにシーズン3から微妙な感じになってきたので、そこまで待ってはいないけれど。

 

野呂邦暢『愛についてのデッサン 野呂邦暢作品集』(ちくま文庫)を読んだ。

野呂邦暢の名前を知ったのは、たしか佐藤正午のエッセイで、そのうち野呂邦暢の小説を読んでみたいと思っていた。特に読みたいと思っていたのが、古本屋の若き店主が主人公だという『愛についてのデッサン』だった。みすず書房から単行本が出ているけれど、文庫化はされそうにもない。単行本を買おうか迷っているうちに、中公文庫から『野呂邦暢ミステリ集成』が出た。解説が堀江敏幸ということもあって、まずは『野呂邦暢ミステリ集成』を買って読んだ。しかし、小説よりも後半にちょっとだけ収録されているミステリに関するエッセイの方を私は面白く読んだ。

そして、ついに『愛についてのデッサン』が『愛についてのデッサン 野呂邦暢作品集』として文庫化された。もちろん迷わず購入した。しかし、先に読んだ『野呂邦暢ミステリ集成』に収録されている小説が特別私好みというわけではなかったこともあったので、期待しないようにして読み始めた。表題作『愛についてのデッサン』は面白かった。まず古本屋の店主が主人公という設定が本好きにはもうたまらない。実は、宮部みゆき作品を次々と読んでいた時期があって、以前は本棚に宮部作品の文庫本がずらりと並んでいたのだけど、今は厳選した作品だけを残している。その中に『淋しい狩人』がある。古書店の主人とその孫が本に絡んで起こる謎を解く連作短編集だ。『愛についてのデッサン』も連作短編。

『愛についてのデッサン』で私が面白く読んだのは「若い沙漠———佐古啓介の旅(三)」。佐古啓介というのが主人公の古本屋の店主。

「若い沙漠」の冒頭、啓介は五日続けて佐古書店にやって来た薄汚れた作業ズボンとジャンパーを着た老人をそれとなく観察する。

 

うつむいていっしんに詩集を読んでいる老人の顔には濃い憂いのかげりが認められた。店に足を踏み入れて本棚を一瞥するときの目付は鋭かった。本を読むのが生活の一部になっている者だけが持っている目の光である。啓介はさりげなく立ちあがってサンダルをつっかけ老人の後ろを通り抜けた。店の前に出て街路を見渡した。

 

いや、いい。しびれました。

 

『愛についてのデッサン』というタイトルが丸山豊という詩人の詩集のタイトルからつけられたものだというのをあとがきを読んで初めて知った。『愛についてのデッサン 野呂邦暢作品集』となっているのは、表題作の他に5つの短編小説が収録されているからなのだけど、私は断然『愛についてのデッサン』が好きで、出来ればもっと佐古啓介の旅が続いて欲しかった。

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