『離陸』は絲山秋子が書く女スパイもの?きっかけは伊坂幸太郎

台風が通り過ぎると、急に涼しくなり、一気に秋になった。いや、暦の上ではすでに秋のはずなのだけど、何しろ暑くて、9月に入ってからも気分はずっと夏のままだったのだ。今朝、ツイッターで「半袖の人」がトレンド入りをしているのを見て、まだ半袖でイケるかもと思っていたけど長袖を着た。

 

絲山秋子『離陸』(文春文庫)を読んだ。

絲山さんの小説を読むのは久しぶり。正確には、絲山さんの小説で、未読のものを読むのは久しぶり。私が初めて読んだ絲山作品は、『海の仙人』だったと思う。その『海の仙人』がとても私好みで、とにかくよかったので、その後、『袋小路の男』、『逃亡くそたわけ』、『沖で待つ』、『イッツ・オンリー・トーク』、『エスケイプ/アブセント』、『末裔』などを読んだ。それらを読みかえすことはあったけど、絲山作品を新たに読むのは久しぶりだったので、なんだかワクワクした。

 

主人公の佐藤は、群馬県にある矢木沢ダムで働く国交省の職員。佐藤は、ある冬の夜、彼に会いにダムまでやって来たレスラー並の体格をした黒人・イルベールから「女優を、探してほしい」と頼まれる。その女優というのは、佐藤のかつての恋人で、イルベールはフランスで彼女と出会って親しくしていたのだが、ある日突然姿を消したのだという。

ただの人探しではなく、ちょっと不思議で、ファンタジーのような要素があって、どことなく、本当にどことなくだけど、村上春樹の『羊をめぐる冒険』の雰囲気を感じるなあと思っていたのだけど、池澤夏樹さんが文庫の解説で「読者は、これはしばらく前に流行したクエスト物の再来かと思うだろう。村上春樹の『羊をめぐる冒険』のような話なのか。」と書いていて、そう思うのは私だけじゃないのだと知った。『離陸』と『羊をめぐる冒険』は全くの別物なのだけど。

 

だけど問題は、ぼくが幸福でも不幸でもないことだった。幸福を強く選んだことがぼくにはなかった。不幸を潔く受け容れたこともなかった。
唯一ぼくが選んだのは女々しいと思われないために画策して、なんとか世間から「淡々としている」と言われるようになったことだけだった。ぼくは強く生きていない。

 

「幸福でも不幸でもない」佐藤は、しかし、やがて幸福になり、不幸にもなる。

 

タイトルにもなっているが、佐藤は「死」を「離陸」に例えている。読み終えて、この世から離陸をした私の大切な人たちのことを考えた。

やはり私は、絲山さんの小説が好きみたいだ。しみじみ良かった。

 

あとがきに、この小説を書き始めるきっかけについて書いてあった。

 

「絲山秋子の書く女スパイ物が読みたい」と、雑誌「クレア」のインタビューで語ってくださった伊坂幸太郎様には、書き始めるきっかけをいただきました。

 

どうやら『離陸』の単行本の帯には伊坂幸太郎さんのコメントが掲載されているようなのだけど、私が持っている文庫本の帯は文庫の解説を担当している池澤夏樹さんのコメントになっている。

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買った本

二階堂幸『雨と君と』第4巻Kindle版を購入。新刊を楽しみにしている漫画。

Kindleを利用するようになってから漫画を買うようになった。本棚のスペースを気にしなくていいというのは良くもあり、悪くもある…のかもしれない。

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