夫から電話で帰りにマックを買って帰ろうかと聞かれ、お願い!と即答。期間限定の月見バーガーにはそれほど惹かれないけど、月見パイは好きなので、てりやきチキンフィレオとチーズバーガー(私はこのマックの普通のチーズバーガーが好き)と月見パイを頼んで電話を切った。しばらくすると夫から再び電話がありマックがありえないくらい混んでいたからやめたと言われた。すっかりマックの気分だったのでがっかりしたけど、帰りにスーパーに寄ると言われたので、お寿司を頼んだ。8貫で800円のスーパーのお寿司は美味しかった。
尾崎真理子『ひみつの王国 評伝 石井桃子』(新潮文庫)を読んだ。
石井桃子の自伝的長編小説『幻の朱い実』を読んで、石井桃子のことをもっと知りたいと思い、調べたところ、この評伝の存在を知った。
『ひみつの王国 評伝 石井桃子』の文庫本は絶版だったのだけど、古本を入手することが出来た。
著者の尾崎真理子さんが石井桃子について知りたい、書きたいと思うきっかけになったのも『幻の朱い実』だった。
千六百枚に上るこの『幻の朱い実』が出版されたのは一九九四年春。二月十八日に上巻、三月十八日に下巻が岩波書店から刊行された。私は刊行直後にそれぞれ読了し、茫然とした。魂を揺さぶられるとはこのことだった。この長編小説を読まなければ、幼い頃から百作以上もその著作に親しんできたとはいえ、作家としての石井桃子に特別な関心を持つきっかけは得られなかっただろう。
尾崎真理子『ひみつの王国 評伝 石井桃子』
『幻の朱い実』を読んだ著者は、石井桃子に電話し、取材を申し込んだ。
『ひみつの王国 評伝 石井桃子』の文庫本は、全718ページ(解説等含む)にもなる大作。石井桃子が誕生した1907年(明治40年)から101歳で亡くなる2008年(平成20年)、さらにその後を書くために著者自らの石井桃子へのインタビューだけでなく、石井桃子の著作、遺された手紙、インタビュー記事、関係者への取材など、数多くの文献、様々な資料を元に調べ上げている。
『ひみつの王国 評伝 石井桃子』を読んで、江國香織の『やわらかなレタス』で『幻の朱い実』に触れているエッセイがあると知った。私は江國さんが好きで『やわらかなレタス』は読んでいたのだけど、その時はまだ『幻の朱い実』を読んでいなかったので、ふーんと思っただけだったのだろうか、覚えていなかった。とにかく引用・参考文献は多岐にわたっている。
そもそも私が『幻の朱い実』を読んだきっかけは、『幻の朱い実』がシスターフッド小説あるいは百合であるという感想をいくつか目にしたからという単純なものだったのだけど、そのような解釈があることは著者も知っており「『幻の朱い実』を明子と蕗子の同性愛的な恋愛の物語と解釈する向きがあることは知っている。」と書いている。
そして、著者はインタビューの中で石井桃子と次のような話(———著者 / 「」石井桃子)をしている。
———大津蕗子は、本当は小里文子さん……。昭和三十年くらいの石井先生のインタビュー記事の中に、お名前が出ていました。この人のためなら何でもやってやろう、と。そういう女友だち、いますね。たまたま私にもいるんですけど、そういうのはある意味で恋愛以上の感情かな、と。
「ほほほ。そうねえ、何ていうんでしょうねえ。男と女の愛情ってものと別に、女同士で対人間的に深く付き合う生活ができるんじゃないかと思うんですね。いわゆるレズビアンとか何かとは違って。相手の心の中に踏み込んでね、生活していけるんじゃないかと思いますけど」
尾崎真理子『ひみつの王国 評伝 石井桃子』
「女同士で対人間的に深く付き合う生活」、「相手の心の中に踏み込んで」、それがまさに『幻の朱い実』の中で描かれていた。
『ひみつの王国 評伝 石井桃子』は、序章から第七章まであり、『幻の朱い実』については、主に第二章「文藝春秋社と『幻の朱い実』 一九二七〜一九三六年」に書いてある。
また、第三章「プーの降りてきた日 一九三三〜一九四〇年」の「井伏さん、太宰さん」には、石井桃子と井伏鱒二、太宰治との交流について書いてある。私は井伏鱒二『太宰治』(中公文庫)で読んだことがあったのだけど、井伏鱒二の随筆から太宰治の死後、井伏が石井桃子に「あのころの太宰は、あなたに相当あこがれてゐましたね。実際、さうでした」と伝えた場面が引用されており、石井桃子が著者に直接語った短い太宰評が書いてあったりして、私にはなかなか興味深い内容だった。
私は小学生の頃、伝記が好きで、学校の図書館でよく伝記を借りて読んでいた。野口英世、キュリー夫人、ヘレン・ケラー、エジソン、リンカーン…。あの頃の伝記好きの気持ちが残っているのだろうか『ひみつの王国 評伝 石井桃子』をとても興味深く、面白く読んだ。充実した読書時間だった。
『幻の朱い実』を読む前からずっと積んだままになっている石井桃子のエッセイ『家と庭と犬とねこ』もそのうち読みたい。
Kindle版にはカバー装画の使用許可が得られなかったのだろうか?単行本も文庫もそれぞれ素敵なカバー装画なだけにKindle版はちょっと残念。
単行本はこちら。