羊と鋼の森

2018年本屋大賞が発表された。受賞したのは、辻村深月さんの『かがみの孤城』。本の話をする数少ないというか唯一の友人がずっと前から辻村深月さんを推していたのだけど、どうも私の好みとは違うような気がして今まで読まずにきた。いわゆる読まず嫌い。

同じような理由、なんとなく好みじゃない気がして読まずにいた宮下奈都さんの小説を初めて読んだ。

読んだのは2016年本屋大賞受賞作『羊と鋼の森』(文春文庫)。

あらかじめ知っていたのは、主人公がピアノの調律師だということ。競馬の調教師なら興味はあるけれど、ピアノの調律師に興味を持ったことはなかった。

主人公の外村は、高校の体育館にあるピアノの調律にやって来た調律師・板鳥が調律したピアノの音色に魅入られ、調律師を目指す。調律師になるための専門学校を出て、板鳥が働く楽器店に就職した外村は、先輩の柳の調律に同行する。初めての同行先で双子の女子高生、姉の和音と妹の由仁に出会った外村は、柳が普通だと評する和音のピアノに強く惹かれる。

普通じゃなかった。明らかに、特別だった。音楽とも呼べないかもしれない音の連なり。それが僕の胸を打った。鼓膜を震わせ、肌を粟立たせた。

壁にぶつかり悩みもがく外村は、先輩調律師の柳や秋野、板鳥の調律や彼らの言葉から調律とは、調律師とは何なのか、そのカケラでも良いから掴みたいと必死に考え努力する。

森に近道はない。自分の技術を磨きながら一歩ずつ進んでいくしかない。
だけど、ときおり願ってしまう。奇跡の耳が、奇跡の指が、僕に備わっていないか。ある日突然それが開花しないか。思い描いたピアノの音をすぐさまこの手でつくり出すことができたら、どんなに素晴らしいだろう。目指す場所ははるか遠いあの森だ。そこへ一足飛びに行けたなら。

優しく穏やかな文体で描かれているのだけど、外村の調律に対する情熱がひしひしと伝わってくる、良い意味で私の想像を裏切る熱い小説だった。

それと、ピアノの調律師の話なのに『羊と鋼の森』というファンタジー小説を思わせるようなタイトルが謎だったのだけど、その意味がわかってスッキリした。

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