クレイグ・ライス『マローン殺し』眠れない夜に洒落たミステリを

Netflixで映画を観た。一昨日は『アガサ・クリスティー ねじれた家』、昨日は『リトル・シングス』。ミステリー、サスペンスと観たので、違うジャンルがいいと思って今日観たのが『マイ・バッハ 不屈のピアニスト』。実在のピアニストであるジョアン・カルロス・マルティンスの半生を描いた作品。その人物については全く知らなかったけれど、幼少期に既にピアノの才能の片鱗を示している様子が予告映像にあって、面白そうだと思い選んだ。でも、思っていたよりも重いストーリーで、気分を変えようと選んだはずなのに途中、サスペンス映画を観ているような気持ちになった。面白かったけれど。

 

先日、なかなか眠れなくて何か短編、出来れば軽めのミステリーが読みたいと思って本棚からクレイグ・ライス『マローン殺し』(創元推理文庫)を引っ張り出した。とりあえず最初の一編、表題作でもある「マローン殺し」を読んだら、これが面白い。本当に久しぶりに読んだので、すっかり内容を忘れてしまっていたため初読のように楽しめた。

私はミステリー小説は好きだけど、とにかく怖いのが苦手なのでグロはNG。その点『マローン殺し』はいい。殺人事件は起きるのだけれど、どこか牧歌的(というのも変かもしれないけれど)。それは主人公の弁護士マローンのキャラクターのおかげだと思う。マローンは酒好き、ギャンブル好きで美人に滅法弱い。そのせいか裁判に一度も負けたことのない有能な弁護士のはずなのにいつも金欠。久しぶりに読んだら、そんなマローンのことが前よりも愛らしく思えたのは私が年を取ったからなのか。

それに洒落た表現も素敵なのだ。

 

マローンは血が凍るような気持にはならなかった。そのかわり、インディアナポリス競馬場で二番手につけている騎手のように、ひたすら速く脈打つのを感じた。
「永遠にさよなら」

 

いや、それは偶然という名の長い腕に、ほんの少し肘を深く曲げてくれとたのむようなものだ。
「恐ろしき哉、人生」

 

時に切ないけれど、怖くはないから眠れない夜に読むのにぴったりだった。一編だけ読むつもりが後日も一編、また一編と読んで、結局全部読んでしまった。この『マローン殺し』だけでなくクレイグ・ライスの作品の多くが絶版なのが残念。

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