よく行くスーパーでワゴンで安売りされていることのあるリョーユーパンのホイップあんぱんが好きで、たまにおやつに食べる。袋の裏に書いてあるカロリーは見ないようにして。
津村記久子『君は永遠にそいつらより若い』(ちくま文庫)を読んだ。
津村さんの小説は『ミュージック・ブレス・ユー!!』、『ワーカーズ・ダイジェスト』、『カソウスキの行方』と読んだけれど、どれも本当に良くて、これはいよいよ私の好きな作家になりそうだという予感がしていた。ただ、デビュー作である『君は永遠にそいつらより若い』を読みたいという気持ちにはなかなかなれなかった。ザッと読んだあらすじやレビューから推測するに何だか重苦しそうだし、暴力的な描写もあるらしく、これまで私が読んだ3作品と違って、苦手な雰囲気がプンプン漂っていた。だから、次に読むなら『とにかくうちに帰ります』か芥川賞受賞作の『ポトスライムの舟』にしようと思っていた。
でも、やっぱりデビュー作は気になる。それに文庫のカバー写真がなんだかカッコいいし。結局ジャケ買いのつもりで文庫を買ってみた。そして、読んでみた。結果、良かった。予想していたよりも重苦しかったし、暴力的な描写もあったりしたけれど、また読み返したいと思えるぐらい良かった。
主人公のホリガイは大学4年生。恋人はおらず、童貞の女もしくはポチョムキンのホリガイは大学に行くか、バイトに行くかの毎日。公務員試験に合格しているので就職活動をする必要はなく、卒業を待つばかり。そんな時に出会ったのが同じ大学の女子学生イノギさん。
ホリガイはイノギさんのことをこんな風に考えていた。
わたしは、イノギさんの目の奥に見え隠れする暗さについて考えていた。それは、古びて乾きかけた水彩絵の具の黒色に似ていた。艶がなく、画用紙の上で水の中で、ゆっくりと拡散する黒だった。
イノギさんの過去についてはやがて明らかになるのだけれど、ホリガイは出会ってすぐの頃に彼女が抱えている何かを感じ取っていた。
ホリガイから小学生の頃のある出来事を聞かされたイノギさんが「そこにおれんかったことが、悔しいわ」と言うのがカッコいい。この一言で惚れてしまうと思った。さらには「もうどうせこっちで誰とも出会わんのやったらさ、わたしでええんちゃうかな」なんて言われたら。
しかし、イノギさんが抱えていたものは重かった。私には重すぎた。読んでいて怖かった。ああ、やっぱり私の勘は当たっていた、読むんじゃなかったとさえ思った。
けれど、そんな思いも最後まで読んだ時にはきれいさっぱりなくなっていた。そして、無性にコーンスープが飲みたくなった。何気ないシーンなのだけれど、なぜか印象に残ったのだ。本を読んでいると、そういうことはよくある。今が冬だったらすぐにでも飲んでいたかもしれない。ホリガイみたくクルトンを揚げたりなんかしない、お湯を注ぐだけのやつだけど。
津村さんのデビュー作は、私がこれまでに読んだ作品に通じるような淡々とした静けさもあり、どうしようもないくらいの荒々しさもあって、何とも言えない魅力に強く惹きつけられた。