年末年始に帰省した際、母に貸していた文庫本のうち読み終えたものを持ち帰ることにした。貸していたのは母が遊びに来た時に私の本棚から自分で選んだ数冊で、読み終えていたのは小池真理子の『恋』と宮本輝の『愉楽の園』の二冊だった。母が『恋』を選んだのにはちょっと驚いた。母と「恋」という言葉が結び付かないと思ってしまうのは、子供の私の勝手なのだけれど。母が私の本棚の『恋』の隣に並べてある『無伴奏』を手に取らないでくれてちょっとホッとした(笑)。ちなみに私が持っている『無伴奏』は妖しい雰囲気漂う青年二人のイラストが表紙の集英社文庫。
伊坂幸太郎の『首折り男のための協奏曲』(新潮文庫)を読んだ。
首折り男とは物騒だなと思ったけれど、まさにその名の通り首を捻って殺す殺人者のことだった。最初に収録されている「首折り男の周辺」は隣のアパートに住む男がその首折り男ではないかと疑う老夫婦、自分とそっくりな別の男と間違われる男、いじめにあう中学生の男の子、この3組がそうとは知らず首折り男に関わるという、まあ、何と言うか、とにかく伊坂さんらしい小説で面白かったのだけれど、いじめる少年達の容赦の無さに思わずぞっとしてしまった。もうひとつ「人間らしく」という短編でも中学生の男の子がいじめにあっていて、そちらのいじめる側の少年達もやはり容赦のない暴力をふるい、まるで悪びれない。伊坂さんと宮部みゆきさんが描く悪人には心底ぞっとさせられる。ただ、流行りのイヤミスと違って読後感は悪くない。私は読後感が悪い小説は苦手で、帯やPOPにイヤミスという謳い文句があると避けている。
伊坂作品に何度か登場している黒澤がいくつかの短編に登場している。その黒澤が登場する「僕の舟」という短編が私は一番好きだ。「僕の舟」には「首折り男の周辺」に登場した老夫婦が再登場している。それぞれの短編が上手く繋がっているなあと感心したのだけれど、どうやら加筆修正して各短編に緩やかな繋がりを作り出したらしい。てっきり連作短編集だと思っていたのだけれど、言われてみれば中には「首折り男」とまるで関係のない短編もあった。
「僕の舟」に再登場したと思った老夫婦も実は短編集としてまとめる際に登場人物の名前を変更したりして、再登場したように変えたのだとか。その「僕の舟」は老夫婦の妻が夫と結婚する前、50年前に4日間だけ会った男性のことを探して欲しいと黒澤に依頼するという話なのだけれど、何ともロマンティックというかファンタジーなストーリーで、そんな都合の良いことがあるのかとつっこみたくなるのだけど、でも、素敵な話なのだ。
最後に収録されている「合コンの話」は何だか面白くなりそうもない話だなと思いながら読んでいたら、これがどんどん面白くなっていった。この話の最後のほうにちらっと登場する黒のジャケットを着た、年齢不詳の男というのはあのキャラクターなのかな。
いやはやどの短編も面白かった。
買った本
村田沙耶香『マウス』(講談社文庫)、津村記久子『ワーカーズ・ダイジェスト』(集英社文庫)購入。
村田沙耶香さんは『ご本、出しときますね?』に出演されているのを拝見して、面白い方だと思ったけれど、『殺人出産』や芥川賞を受賞した『コンビニ人間』はあらすじを読む限り私の好みとは違うような気がしたので、もしかしたらこの先村田さんの小説を読むことはないかもしれないなあと思っていた。しかし『マウス』という小説がちょっと百合っぽいらしいということで、あらすじを読んでみると、これがなかなか面白そう。ということで初村田作品として購入。まあ、百合っぽい雰囲気目当てなんですけど。
津村記久子さんは『ミュージック・ブレス・ユー!!』が良かった(→わざと遠回りをしたい)ので、次の作品として自分好みっぽい『ワーカーズ・ダイジェスト』を選んでみた。