吉本ばなな『TUGUMI』さあ、夏がはじまる

日曜日の昼、夫と回転寿司に行った。駐車場で車から降りて店の入口まで歩くだけでもうじんわりと汗をかいた。休日の昼時とあって店内には順番待ちをしている人がたくさんいた。しかし、事前にネット予約をしておいたおかげで私達は待つことなくすんなりと席に着くことが出来た。便利。イカ、つぶ貝、まぐろユッケ、えんがわ、茶碗蒸しなど思うままに注文してぱくぱく食べた。回転寿司は引っ越してからは初めて。久しぶりで美味しかった。

 

最近は未読の本に読みたいものが見つからず、本棚に並んでいる好きな本を読みかえすことが多い。夏だし、吉本ばななの『TUGUMI』(中公文庫)を久しぶりに読みたくなって読んだ。初めて読んだのは中学生の頃だったか。先に映画『つぐみ』を観て、それから原作を読んでみたくなって読んだ。当時お小遣いで買った単行本をなくした後、文庫本で買い直した。Xの「#名刺代わりの小説10選」に選ぶほど大好きな小説だ。

小説の語り手は大学生のまりあ。まりあの一つ年下の従姉妹がタイトルにもなっている「つぐみ」。つぐみは美少女で病弱だけど口が悪くて意地悪でわがままで凶暴。映画ではつぐみを牧瀬里穂が演じているのだけど、それがとにかくハマり役だった。だから、私が『TUGUMI』を読む時、つぐみの顔も声もつぐみを演じた牧瀬里穂になってしまう。

まりあが東京の大学に進学するまで住んでいたのが海辺の町にあるつぐみの家で、まりあの母親の妹の嫁ぎ先である山本屋旅館。『TUGUMI』は、その山本屋旅館がなくなる前の夏の話。だから、今、読みたくなった。

 

夏が来る。さあ、夏がはじまる。
必ず1回こっきりに通りすぎて、もう2度とないシーズン。そんなことよくわかった上できっといつも通りに行ってしまうだろう時間は、いつもより少しはりつめていて切ない。その時、夕方の部屋にすわって、私達はみんなそのことをよく知っていた。悲しいくらい知った上で、なおとても幸福な気持ちでいた。

 

気だるい思考の合間に、やたら読書がすすむ。窓ガラスを流星のようにつたう雨つぶが私の頭の中の画面を幾度もよぎっていった。
そうしてふいに
「もしつぐみがこのまま悪くなって死んでしまったら」
と思う。それは実感として、うんと小さな頃から、つぐみの体がもっと弱かった時から身の内にある思いだった。そしてそれはいつでも、ふいにやってきた。こういう雨の日は過去と未来がしんと空気にとけて浮かびあがってくるのだ。
とたんに涙が1滴、本の頁に落ちる。いつのまにかあふれて落ちる。
はっとした耳に、雨がしとしとと軒を濡らす音が聞こえ、私は”いったい何だったんだろう今のは”という気分で涙をぬぐう。そしてすぐにすっかり忘れて本の続きを読みはじめる。

 

久しぶりに読んだのだけど、ものすごくよかった。前に読んだ時よりももっと、しみじみとよかった。久しぶりに映画も観たくなった。映画というかつぐみを演じる牧瀬里穂を観たいのかもしれない。アマプラやネトフリで配信してくれないかな。

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