小説の合間に箸休めのようにエッセイを読む。今は向田邦子の『夜中の薔薇』(講談社文庫)を読んでいる。いつか読みたいと思っていたのだけど、新装版が出たのをきっかけに買った。しかし、新装版の解説担当を知った時は旧版を買えばよかったかなと思った。どうも苦手なのだ。だが、新装版は文字も大きくなっているということだし、読んだ後で母に貸すにはその方がよいだろうと思って、結局新装版にした。
最近『夜中の薔薇』に出てくるトマトの青じそサラダを真似して作っている。
私はヘンに凝り性のところがあって、いいとなるとそればかり続けて食べる癖がある。
トマトを切って、青じその細切りをのせ、胡麻油、酢、醤油を加えた和風ドレッシングをかけたものがひどく気に入って凝り、友人たちにもご馳走し、電話で作り方を、–—というほどご大層なものではないが–—宣伝した。
簡単だから私でも真似できる。トマトと青じそって合うんだなあと感心しながら食べている。
向田さんおすすめの料理として若布の油いためというのも出てくるのだが、これは油がはねるらしく、長袖と鍋の蓋が必要などと書いてあるのを見て真似をするのをやめた。しかし、女優のいしだあゆみさんはこの若布の油いためを作ったそうだ。
一回いしだあゆみ嬢にこれをご馳走したところ、いたく気に入ってしまい、作り方を伝授した。
次にスタジオで逢ったとき、
「つくりましたよ」とニッコリする。
「やけどしなかった?」とたずねたら、あの謎めいた目で笑いながら、黙って、両手を差し出した。
白いほっそりした手の甲に、ポツンポツンと赤い小さな火ぶくれができていた。
長袖のセーターは着たが、鍋の蓋を忘れたらしい。
美しいお二人のやり取りを思い浮かべると何だかほうっとなる。