リルケを愛した天文学者の日記『天文台日記』

いま読んでいるのは武田百合子『犬が星見た ロシア旅行』(中公文庫)、チャールズ・ブコウスキー『死をポケットに入れて』(河出文庫)、堀江敏幸『回送電車』(中公文庫)。日記とエッセイ。その時の気分でどれかを手にとって読んでいる。

 

今日、読み終わったのが石田五郎『天文台日記』(中公文庫)。

著者は岡山県にある岡山天体物理観測所で副所長を務めた天文学者。『天文台日記』は一九七✳︎年一月一日から始まる一年間の日記。

私は星などの天体に特別な興味を持っているわけではない。では何故『天文台日記』を読んだのかというと、日記を読むのが好きだから。何か面白そうな日記はないかと探した結果、たどり着いたのが『天文台日記』だった。

日記には天文台の設備や装置、観測方法などかなり専門的なことも書いてあり、私にはよく理解できない部分が結構あった。だから、この本が元々「ちくま少年図書館」の一冊として刊行されたものであると編集付記に書いてあるのを読んで驚いた。

 

一月二日、天文台にいる石田さんの元へ長男がおせちの詰まった重箱と年賀状を持ってやって来る。

重箱の「おせち料理」を指でつまみながら一枚一枚と年賀状をくってながめる。去年まできれいな、こった木版画の賀状をよこしていた友人が、ことしから活版ずりに変えているのを見ると、あいつも仕事が忙しくなったのだろうと思い、また喪中欠礼の葉書を手にすると、学生時代によく歓待してくれた友人の母親の温容を思い出したりする。賀状というのはおたがいの消息をさりげなく知らせあう便利な習慣である。

 

年賀状の準備を少し億劫に思う自分が恥ずかしくなる。

 

夜になると長男はソファで眠っていた。

昼間「手つだってあげるよ」とはりきっていた十郎がソファの上でいびきをかいて眠っている。毛布をかけてやる。夜食の準備。干うどんをゆでて、卵をおとす。雲のおかげでゆっくりと食べることができる。大好きなバッハの「無伴奏チェロ組曲」のレコードをかける。

 

「雲のおかげでゆっくりと食べることができる」というのは、雲があると観測ができないから。私が日記で楽しみにしているのは、何を食べたかという食べ物のこと。それと本、映画、音楽のことだったりする。「干うどんをゆでて、卵をおとす」これだけなのに美味しそうだ。

 

石田さんについて「歌舞伎や狂言・古典をこよなく愛し、リルケをそらんじる文人だった」と解説にある。

二月七日の日記はこんな書き出しで始まる。

日曜日。寝床の中でガラス越しのあたたかい日ざしを浴びながら、手あたりしだいに本を読む。
大好きなR・M・リルケの詩集『形の本』の中に、こんな詩がある。

 

この後「なげき」という詩の引用が続く。

 

石田さんの人柄と文体のおかげだろうか。読んでいると心が柔らかくなるような、そんな日記だった。

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