歯医者の帰りにいつも行くのとは違うスーパーに寄った。お昼にはまだ時間があって店内にはほどほどに客がいた。たまにはお弁当でもと思ってお惣菜コーナーをうろうろ。500円のハンバーグ弁当を買うか、それともご飯は家にあるんだし280円のハンバーグ単品(下にスパゲッティが敷いてある)を買うべきか。しばらく迷って、結局ハンバーグ単品を買って帰った。家に帰って冷凍してあったご飯をチンして、お湯を沸かして即席味噌汁を作って、ハンバーグと食べた。美味しかった。検診で虫歯が見つかった憂鬱を忘れた。
柴崎友香『きょうのできごと、十年後』(河出文庫)を読んだ。『きょうのできごと』を読み返してから読もうかとも思ったけれど、結局そうしないで読んだ。
『きょうのできごと』は、私が初めて読んだ柴崎友香の小説だった…と思う、たぶん。文庫の解説を保坂和志が書いているというのもこの小説を読んでみようと思った理由のひとつだった。『きょうのできごと』との出会いが柴崎友香にハマるきっかけとなった。
『きょうのできごと、十年後』の中で久しぶりに会う登場人物たち。この人は誰だっけ?と思いながら読み進めた。読むうちに少しずつ思い出していった。二十代だった登場人物たちは、十年経って当然だが三十代になっている。
男前のかわちくんに十年前と同じようにちょっかいを出すけいと。変わらないままのようで、変わっていた。
「だからー、自分でもほんまに不思議やねんけど、そういう気持ちが湧いてけえへんねんなー。ぎゃーぎゃー言い過ぎて、使い果たしてもうたんかも。一生分のときめきとかどきどきとか」
けいとはモヒートを飲み干して、カウンターの中の男の子にもう一杯もらった。
「なんていうか、前みたいに、わーって体が浮き上がるような感じ、ないねんなあ」
「……うん。それは、わかる」
『きょうのできごと』を読み、続けて『きょうのできごと、十年後』を読んだ人はもしかしたら彼らや彼女たちが輝きを失ってしまったような気がしてがっかりしたかもしれない。しかし、今の私の年齢に近いのは十年後の彼らだからなのか、私は変わってしまった彼らをすんなり受け入れられた。「……うん。それは、わかる」と。