大岡昇平『成城だよりⅢ』を読んで全3巻を読み終える

3月最終日。まだこたつを出したままの我が家。今日は雨で少し肌寒いので助かった。こたつで熱いほうじ茶と干し芋。干し芋は粉をふいていて、ちょっと硬めのが私は好きだ。

 

大岡昇平『成城だよりⅢ』(中公文庫)を読んだ。ちょっとずつ読んでようやく全3巻読了。

 

大岡昇平の『成城だより』が面白かったので2巻と3巻も買う
大岡昇平の『成城だより』(中公文庫)を読んだ。全3巻の第1巻。『成城だより』を読もうと思った理由は前に「『富士日記を読む』を読む」に書いたが、『富士日記を読む』で岡崎京子さんが書いた文章を読んだから。
大岡昇平『成城だよりⅡ』を読む
大岡昇平の『成城だよりⅡ』を読みました。武田泰淳さん、武田百合子さんの名前が出てくるページに付箋を貼りながら読むのが楽しい。

 

1985(昭和60)年二月八日の日記でマンガについて語っているのだけれど、その日の日記の終わり頃にこうあった。

五歳の茜、ベッドのそばへ来て、
「おじいちゃん、そんなに少女マンガ読んでどうするの」
ときかれ、答えに窮す。
「少女マンガ、描くんだ」
と答えて、毛布をひっかぶる。文壇事情を少女マンガ風に物語化した夢を見た。

 

ふふっと笑った。

 

同年四月十一日の日記より。

外へ出れば、雨降る。道も店も若者でいっぱい、われ六歳より二十歳までこの辺で育ち、生きたハチ公を見たこともあり、東京にラッシュアワー生れ、渋谷駅前に出現せし群集の目撃者なれど、かかる過剰は知らず。圧倒されて食欲出ず。どの店もヤングでいっぱい、空いているレストランはまずいだろう、なんて気がして、入る気せず。

 

生きたハチ公を見たことがあるという事実に思わずおおっと反応してしまった。

 

同年八月一日の日記には富士の山小屋に武田百合子さんが来て、免許証の書き替えに東京へ帰ると話すエピソードがある。百合子さんは、富士吉田市イトーヨーカ堂のレジ前に並んでいる時にスリに遭ってしまったのだという。

吉田署に届けたが、これまでイトーヨーカ堂でスリの例なしとて、相手にしてくれない、という。小事件のために現場検証をやらねばならず、面倒臭いからなり。武田泰淳去りてより九年、花子ちゃんとの女世帯、新進作家百合子といえどもさびしげなり。その上、災難に遭っちゃたまらない。

 

他に八月九日、九月三十日の日記にも百合子さんの名前が出てくる。

九月三十日の日記に百合子さんの新しいマンションを訪ねたエピソード。

故泰淳の遺影写真家花子ちゃんポスターの大きさに引延ばして壁間にあり。書棚には国訳大蔵経、漢文大系のほかに、スタインの七巻本英文全集あり、『二十五年史』なる六冊本あり、生前蔵書なんか見たことはなかったが、故人の学者的一面を偲ぶ。
これまでの赤坂氷川神社裏のマンションよりは、ずっと明るい。花子ちゃん、個展準備しあり。母子の優雅なる生活、羨望に堪えず。四時頃、辞去。

 

よほど新しいマンションが明るく綺麗だったのか、八月一日の日記では「さびしげなり」と書いていたのが、ここでは「母子の優雅なる生活、羨望に堪えず」となっているのがなんかちょっと面白い。

そういえば、1巻で百合子さんに「男でも出された食物の詳細報告の能力あり」と言ったと書いていたけれど、全巻読み終えて『成城だより』に食べ物の話はあまり出てこなかった気がする。それに色々と難しい話が出てくる。しかし、日記というのはやはり面白い。

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買った本

和田誠/平野レミ『旅の絵日記』(中公文庫)購入。

日記好きなのに昨年12月に出た中公文庫の新刊を見逃していた。パラパラとめくってみたが、和田誠さんのイラストがたっぷりとあって、とても楽しそうな絵日記になっている。

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